息子が幼稚園の年少~年中の頃のお話です。
この頃の息子は自分で歩くことができませんでした。
正確には、歩く能力はあるにも関わらず、自分の足で歩くことを拒否するこだわりがありました。
移動手段は、専らおんぶです。
でも、自分の意思が伴えば、自分で歩けます。
何か取りに行きたいとか、その場に行きたい意思がある時だけ歩く感じでした。
このおんぶへのこだわり。
周りの人間、特に私や園の先生に与える迷惑度合いが強く、心理の療育を受けるきっかけになりました。
私が幼稚園で悩んだこと、2トップのうちの1つです。(もう1つは他害)
それくらい、私が抱える困り感は強かったですね。
周りにも、意外と同じような悩みで困っている方がおりました。
なので、そんなに珍しいケースではないと思います。
この記事が、少しでも、今困っている方の参考になってくれたらうれしいです。
目次
単なるおんぶが、恐ろしいパターンを生むことに・・・
こだわりの始まり
息子は、もともとおんぶが好きな子でした。
両手が空くので、私が抱っこよりおんぶをして、家事や寝かしつけをすることが多かったので、1番最初のきっかけはその流れの影響かなと思います。
過敏があって、他人と接触すると叩きにいってしまうこともあったため、トラブルを回避するために、外出先では率先しておんぶをしていた事も多々あります。
園の先生には、プレ幼稚園などで事前にそのことを伝えました。
これ自体、まだ幼い子ですから、よくある話として双方受け取り、本人が安心する、好きなことなんだねぇ~と参考程度に流す感じでした。
むしろ、コミュニケーションの取りにくい息子の、貴重な愛着形成手段みたいな、良い意味で捉えていたと思います。
さて、入園してすぐは、園で毎日のように泣いていた息子。
先生は交代でずっと息子をおんぶしてくれて、息子が園生活に慣れるように試みてくれました。
その後、泣かずに過ごせるようになってからも、園で度々先生におんぶを求める息子。
体力も無かったので、疲れなども考慮して、先生は可能な限り息子の要求に応じてくれていたんだろうと思います。
家では。
これまた、今までよりおんぶを要求することが多くなりました。
私もつい・・・
園で疲れているのかな?
家では甘えたいのかな?
体調が悪いのかな?
と要求に応じる回数が増えていきました。
最初は、単なる甘えや疲れだと思っていました。
強い不安感から逃れるための逃避先が、先生や私の背中(安全基地)で、息子にとっては不安から逃れる手段の1つだったのかもしれません。
そんな軽い認識のまま、息子をおんぶし続けていました。
まだ、年少と小さかったので、おんぶもさほど苦ではなかったですしね。
そんなこんなで・・・
おんぶを要求すると応じてもらえるものだから、息子の中でどんどん強化され・・・
それが、だんだんとパターン化してしまい。
最終的に強いこだわりになってしまいました。
結果、自分の足で歩くとパニックになる・・・という事態を招いてしまったんだと思います。
私の試行錯誤
気が付いた時には、強いこだわりになってしまっていたおんぶ。
家では、朝起きた瞬間からおんぶが始まります。
寝室→キッチンの移動もおんぶ。
玄関から車までもおんぶ。
車から教室までもおんぶ。
園から自宅に戻ると、もう大変。
遊んでいる時はいいんですが、
ご飯を食べるためにキッチンに行く。
外におでかけに行く。
自発的でない移動は、自分で一歩も歩けなくなってしまい、その場で固まってしまうんです。
「おいで!」と言って、少し離れたところで両手を広げ待っているんですが、右足を出したまま動けない息子。
それでも、たまに自分で移動してしまうこともあるんですよ。歩けるんで。
自分で動いてしまったことに気が付くと、「うぅーう!!」と怒り、泣きわめき。
まだ拒否とか、否定とか、そういった類の言葉が言えなかったので、ただ怒って泣いて感情を爆発させる感じでした。
そして、せっかく歩いてきたのに、わざわざ元の場所に急いで戻って、その場からおんぶでやり直しを求めます。
こだわり、おそるべし・・・
何とか打開したくて私が試みたこと。
『かえるがぴょーん』
絵本がありますよね。
それを真似て、ジャンプしながら、遊びの中で移動を取り入れました。
『ぺんぎん歩き』
私の足の上に息子の足を置いて「おいっちに、おいっちに、ペンギンさん」と歌いながら移動し、おんぶ以外で移動できる経験をさせ、そこから歩行することを試しました。
これらの試みについて、かかりつけの児童精神科医の先生も「いいんじゃないですか。」と賛同してくれていました。
結果・・・
ペンギン歩きもこだわりになってしまい、余計に大変なことになってしまいました!
パターン崩しは・・・すごく大変!!
精神科医からの助言に苦悩する
万事休す。
自分ではもう手の施しようがなくて。
息子のかかりつけの精神科医に、度々相談していました。
お医者さんからは、
「おんぶを一切なくすことです。このままだと、いつまで経っても辞められませんよ。小学校高学年になってもおんぶするつもりですか?」
そう言われました。
よく言われることは、主導権は親が握ること。
子どもの言いなりにならない、要求に屈しないこと。
これが・・・なかなか難しい。
ただ屈しないだけなら良いのですが、その後に子どもの大癇癪、大パニック状態がセットで付きまとうので、親の精神がやられます。
それでも・・・私は焦っていたので、今の状態が改善されるならばと思い、精神科医のアドバイスを守って、一切おんぶをしない方法を試みました。
取り組まなければ!と必死でした。
それに、息子の精神科医の先生って、結構権威のある先生なので、間違ったことを言うはずがないと思っていたんです。
この方法に、難しさを感じながらも、疑うことは無かったです。
さて、おんぶをしないとどうなるか。
案の定、要求が通らないことに息子は大パニックの連続です。
ひどい時は2時間以上泣きっぱなし。
それが、1日に何度も起きます。
精神的に不安定になり、家でも園でも機嫌が悪く、おんぶの要求を断る度に泣かれて。
私だけでなく、周りの家族や園でも同じ対応を取らないと意味がないということで。
家族、そして本人の困り感は、一層強くなってしまいました。
この時の私は、たぶん相当追い込まれていたと思います。
園の先生は、「息子さん、園で頑張っているんだから、お家では甘えたいと思いますよ・・・」と私の対応に疑問をお持ちのようでした。
それでも、お医者様のおっしゃること。
園の先生も、「そういうものなのですかね・・・」という感じでした。
そんな状況を我慢して、私も息子に屈しないように、要求に応じないようにしていたものの・・・
幼稚園児、度々風邪で熱を出しますよね。
病院に連れて行く際に、歩かない息子を引きずるわけにもいかず。
その時は・・・さすがに私も折れてしまいました。
おんぶや抱っこをするしかなかったですね。
私の精神的な葛藤は日に日に強くなり。
精神科医の診察時間だけでは手に負えないということで、臨床心理士の力も借りることになりました。
心理の先生は開口一番、
「たしかにおんぶをしないのが1番なのですが・・・まだまだ小さいので、おんぶや抱っこを完全にしないという選択は、実際生活していて難しいですよね。」と。
「精神科医の先生のおっしゃることは、たしかにその通り・・・として、別の方法を試しましょう。」
そうおっしゃいました。
もう、神かと。
先生が神々しかったです。
その言葉で私は救われ、心理の先生に心をガっとつかまれました。
担当した心理の先生も、偶然息子と同じ年の男の子がいるそうで、実際子育てをしていて、おんぶや抱っこをしないというのは無理がある、と共感してくれて。
精神科医は理想を語り、心理の先生は現実を見てくれる。
私の信頼は、いっきに心理士に傾き、理解のあるこの先生と一緒に、時間はかかるけれど無理のない”歩行訓練”に取り組むことにしたのでした。
歩行訓練は、技の連続
心理の先生も、私の悩みを重く見てくれて、通常多くて1ヶ月に1度の心理の時間を、2週間に1度、時には週に1度設定してくれて、なるべく短期に問題が解決できるよう、力を貸してくれました。
それでも、息子の悪いパターンを崩し、自分で歩けるようになるまでに半年以上かかりましたけどね。
まず、行ったことは、自分の力で一歩歩くこと。
心理室で行ったのですが、息子の一歩の間隔のところにテープを貼ってくれて。
そこまで自分で歩く。
歩けたら、ごほうびとして、息子の大好きな紙吹雪遊びを行いながら、私と先生ですごくほめる。
その繰り返しを行いました。
一歩歩けたら、先生はほめたたえ、踊りながらキレイな紙を上から撒いてくれます。
息子は、上機嫌。
日毎に歩ける距離を伸ばし、1ヶ月程で部屋の中を自分で歩けるようになりました。
お次は室外に出て、廊下を歩き、待合室まで行きます。
ごほうびは、息子が大好きなシャボン玉。
歩けたらしばらくシャボン玉で遊べます。
だんだんと距離を長くしていき、施設の外も歩くようになっていったのですが。
ここで、行動分析学で有名な奥田健次先生の元でお勉強されている心理の先生にも加わっていただき、更なる技を伝授していただきました。
こう握ると、子どもが途中でしゃがんだり、寝転んだりする際、握られた手が痛くて、自分で起き上がってくるそうです。
なので、子どもがしゃがんでしまっても、何があってもつないだ手は離さないようにします。
この握り方、主人と実践しましたが、確かに座り込んだりすると手が痛いんですよ。
通常に握る際は大丈夫なんですがね。
子どもが他に気を取られて歩かなくなったり、寝転んだりしてしまっても、親はかまってはいけないそうです。
電信柱のごとく、前を向いて目線も送らず、棒立ちをして、子どもが再び歩き出すのを待つのみです。
1番ビックリしたのは、これですね。
もう、ずーっと声掛けをし続けるんですよ。
「いいよいいよ!」
「かっこいいよ!」
「できてるできてる!!」
こうしたほめ言葉を浴びせ続けるんです。
立ち止まったり、他のものに気を取られたら声掛けをやめ、電信柱になる。
また歩き出したら、ほめたたえる声掛けを再開する。
こんなにもたくさんほめるのか!
と思う程、こちらの希望通りに歩けていたらずーーーっとほめ続けるんです。
口が疲れます(笑)
こうして、息子は約半年間訓練を重ね、家の中でも外でも歩けるようになっていきました。
悪いパターンが解消し、すっかり息子のこだわりが無くなっていました。
最後に
勘違いして欲しくないのは、決しておんぶが悪いわけではありません。
息子の強いこだわりが無くなった後ですが、普通に必要な時はおんぶしていましたし、未だにすることだってあります。
ただ、自閉症は、良いも悪いもパターンが入りやすいですよね。
息子の、このおんぶへのこだわりは、まさに悪いパターンが身についてしまったケースです。
1度見についたパターンを崩すのって本当に大変。
それを、身をもって体感したできごとでした。
本来ならば、基本的に、こだわりとはうまく付き合っていくものであって、無理にやめさせたり、矯正させたりしなくても良いとは思います。
家族や学校が付き合える範囲ならば。
基準は、周りに迷惑をかけていないか。
本人の安全や心身の健康を脅かしてはいないか。
我が家の場合、息子のおんぶに対するこだわりは、家族の生活に制限をかけ、周りの困り感が著しく強かったです。
おまけに、本人のパニックを誘発し、息子の精神にも多大なる悪影響を及ぼしました。
これは、治した方が良いこだわりになると思います。
専門家の力を頼るべきかなと。
おんぶへのこだわり。
一言で言っても、その原因は人それぞれで、中には、床の模様が怖いとか、床の材質が合わないとか、足を床に付けたくない、なんて理由で歩けない人もいるそうです。
そういう場合、床に敷物を敷くとか、スリッパをはくとか、対応が変わってきます。
なので、やはり専門家と一緒に原因を探って、解決策を導いていくのが一番かと思います。